ライフレッスン

相当昔に読んだ、在宅医療を行っている先生の書いた本を読み返しました。

昔よりなるほどと納得できるところがいっぱいありました。

この本の中で、キューブラーロスさんの著書ライフレッスンの一節が引用されています。心に響いたので書き留めておきます。ちなみにキューブラーロスさんは死の受容過程で有名です。それは避けられない死を受容していく悲しみの過程(プロセス)を、否認・怒り・取引・抑うつ・受容の5段階でモデル化したものです。患者さんの心の移ろいは千差万別で、無理に当てはめようとするのはとても危険ですが、重要な概念ではあります。

『あなたが最後に海をながめたのはいつのことだろう? 朝の空気を味わったのは? 赤ん坊の髪の毛にきわったのは? おいしい料理を食べたのは? はだしで草の上を歩いたのは? 青い空をながめたのは? それらはすべて、もしかしたら二度と得ることのできない貴重な経験になるかもしれない。死にゆく人たちが「もう一度だけ星空がみたい」「もう一度、しみじみ海をながめたい」というのを聞くとき、わたしたちはいつもハッとさせられる。海のそばに住んでいる人はたくさんいるが、しみじみ海をながめ、海を味わいつくす人はほとんどいない。ほとんどの人は空の下に住んでいながら、星をながめようともしない。わたしたちはほんとうに人生にふれ、味わい、堪能しているだろうか? 非凡なものを、とりわけ平凡のなかにある非凡なものを、感知しているだろうか?(中略)

いまの人生とおなじ人生は二度と手にすることができない。この人生ではたしてきた役割をもう一度演じることも、もう一度これまでとおなじように人生を経験することも、けっしてできない。あの両親のもとに生まれ、この家族をもち、このこどもにめぐまれ、この環境、この状況のもとに生きてきたように、この世界を経験することは、もう二度とできない。おなじ顔ぶれの友人をもつことも、今回の生かぎりである。あの海、あの空、あの星、あの愛する人を、最後にもう一度だけみたいと願うようになるときまで待つ必要はない。いまこそ、それを、しみじみとみてほしい。』

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