マジックアワー

とある初夏の日、前田真三氏の写真に魅せられていた私は丸一日美瑛町の丘陵田園地帯の撮影を楽しみ、締めくくりは美馬牛にある新栄の丘で夕焼け撮りに挑戦した。

ここは美しく広がる風景そして空を360度見渡すことができる。 早々に三脚にカメラを仕掛け、待つことしばし。

ゆっくりと太陽が山の向こうに沈み、同時に空と雲がオレンジ色に染まり時々刻々その色合いを深めていく。

情感を誘う美しさだ。

デジタルカメラなのでどんどんシャッターを切る。 しかし何気なく夕焼けに染まる西の空から東の空に目を向けた時、私は思わず息を飲んだ。

そこには思いもかけない薄紫の空が広がっていた。

これまで知らなかった。

西の空の夕焼けが綺麗な日は、それと対をなして東の空は薄紫色に染まっているのだ。

派手さはないが得も言われぬ美しさだ。 写真を撮り始めて数年。腕は全然上がらないけれど、写真は見えているものを写すのではなく、そこにある光を撮るものだということがわかってきた。

特に直接光ではなく陽が沈んだ直後の薄暮の時は逆に光を意識する。

散乱光が織りなす色合いの深さ、優しさ、魅惑的な色のグラデーションは本当に美しい。 この時間帯は写真、映像の世界ではマジックアワーと表現されるようだ。

映画マジックアワーではこの時間を人生の中でもっとも美しく輝く一瞬に重ね合わせて表現していた。

でも輝くのはこの一瞬だけではないし、直接光が描き出す光と影もまた良し。

そして明日もマジックアワーはやってくる。

写真も人生もそう考えて前向きに描き続けることができればいいのだと思う。

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